わが街 ビルヂング物語
■わが街 ビルヂング物語(文/瀬口哲夫・写真/松谷常弘 定価1,680円)
【2004年(平成16年)12月2日 朝日新聞-ダイジェスト】
名古屋市立大学芸術工学部長の瀬口哲夫さん(59=当時)が本紙学芸面で56回にわたり連載した「街の記憶」が、単行本「わが街 ビルヂング物語」になった。愛知、岐阜、三重の東海3県に残る戦前の鉄筋コンクリート建築に刻まれた歴史を、柔らかな筆致で掘り起こした。「建物は街の歴史を知るためのランドマーク。目にして過去に思いをはせれば、心が豊かになれる」と瀬口さんは話している。
「街の記憶」は、03年1月から04年3月まで連載された。原則として1回に一つの建物を選び、写真と併せて紹介した。
舟木一夫らが出演した映画「高校三年生」のロケ地になった滝学園(江南市)、司馬遼太郎が「みごとな普請」と記した温泉旅館「湯之島館」(岐阜県下呂市)、皇族の伊勢神宮参拝時に玄関口となる近鉄宇治山田駅(三重県伊勢市)をはじめ、多様な建物がエピソードとともにつづられている。
「本にまとめると、歴史は物語だと改めて感じます」と瀬口さん。単行本化にあたり、幅広く活用してもらおうと、連載にはなかった地図や設計図も盛り込んだ。連載で外観を使った建物には内部の写真を加えるなどして、建物を立体的に感じられるよう工夫もした。
表紙の活字や色合いもレトロな雰囲気だ。
建築学を学び、大学で都市計画を教える瀬口さんが、東海地方の近代建築を調べ始めて30年近くたつ。この間、姿を消した建物も多い。連載で取り上げた建物も、UFJ銀行名古屋ビル別館のように解体中のものや、解体予定のものもある。
「古い建物のある空間は落ち着くし、目にして歴史に思いをはせれば心が豊かになれる」と瀬口さん。「建物を使い続ける欧州に比べ、日本は、建物が作り出す文化の厚みを軽視しすぎではないか」と話している。
【防水ジャーナル 2005年1月号】
本書は、東海地方に戦前から残るコンクリート建築を58棟選び、貴重な写真、図版を交
えて紹介する。よくある建築物紹介のように、単なる資料に留まらず、解説からはここに収められている建物すべての街の記憶が物語として伝わってくる。また、紹介されている建物以外にも、建物の周辺情報が囲みで紹介されるなど、竣工当時の街の雰囲気とこれまでの歴史を味わうことができる。巻末には、美しくなっていく名古屋の街づくりの歴史と秘密を明らかにする図説も併載。資料編では、東海地方に現存するコンクリート建築をもうらする写真入り一覧表も掲載されている。